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院長ブログ

日本男子卓球界のエースを襲った視力障害

2019/4/2

水谷準選手は男子卓球界のエースとして人気を博しており、今はママさんになり幸せな様子が度々メディアで紹介されている女子卓球の福原愛選手らと共に世界の強豪達を撃破し、日本における卓球をプロリーグが出来るまでに盛り上げた最大の功労者です。年齢的にもアスリートとしてピーク期にあり、東京五輪でもメダルが期待されています。

その水谷選手が先日『ここ最近球が見えていない』と自身のSNSでコメントし、卓球の東京五輪でのメダル獲得を期待する国内に暗い影を落としました。実は今回の水谷選手の目の不調については、テレビで報道される前日にあるマスコミ関係者から連絡があり、医学的意見を求められる事で知りました。「1年前から相手の打った球が一瞬視界から消えてネットを超えてから再び現れる」というのです。調べてみるとアスリート卓球選手の打ったスマッシュは時速約190km近くに達し、コートの狭さを考えるとその体感速度はあらゆるスポーツの中で最大になるとの事。この1年間の成績がやや不調であるとは言え、半分の距離で対応していた水谷選手の凄さが改めて確認させられるだろう。なぜボールが見えなくなってきたのでしょうか。

メディアでも報道があったように、彼がここ数年で受けたレーシックの影響がまず考えられそうです。レーシックとは近視や乱視などの屈折異常に対し角膜を削る事で屈折を変化させる手術で、メガネやコンタクトレンズ無しの裸眼で良好な視力が得られます。1990年代にアメリカで開発された後、2000年には日本でも厚生省の認可を得てから沢山の方が手術を受け安全性と有効性が確立されています。メガネやコンタクトレンズから解放される事はスポーツ選手にとって大きな恩恵があり、数多くのプロスポーツ選手が受けています。手術なので合併症が皆無という訳にはいかず、私の知る限りでも数名のプロ野球選手が合併症の治療の為に一時離脱を余儀なくされています。今回水谷選手は専門医の診断を受けてレーシックによる影響は考えにくいと診断されているそうです。では年齢的な動体視力の衰えや常に厳しい勝負のストレスなどのメンタルな要因などが原因なのでしょうか?

私は彼のコメントでの「LED製の点数掲示板の白い光と球の白さが重なって見えなくなる・・・」というフレーズが気になりました。眼科領域では視機能障害の原因として「グレア・ハロ」という用語があります。夜間に光がにじんで見えるのをハロー、眩しく見えることをグレアといい、特に夜間の運転時に障害を来します。白内障手術を受け眼内レンズが入っている状態、レーシック手術後に生じる事がある現象です。自覚の程度には個人差があり副作用というより避け得ない不具合とされています。どんな風に見えるかはネット上に多くの画像が掲載されているのでご確認ください。近年の卓球はエンターテーメント化が進み、薄暗い会場内の中心にある卓球台にスポットライトが当たる状況で選手は試合をしており、「眩しい、球が見にくい」という声が選手間から挙がっているそうです。レーシック後のグレア・ハロ現象が生じ、更にレーシック後にほぼ必発であるドライアイによる霞みが水谷選手の視覚障害を起こしている可能性は少なからずあると思います。

現在水谷選手は遮光レンズを用いて対策しているようですが、他の選手の事も考え白以外の球の使用や照明の形態を再考されてはどうでしょうか。

プロ野球選手が発症した眼疾患について

2019/2/12

2月になると私の楽しみが増えます。各プロ野球球団が春の開幕に向けてキャンプを始めるからです。この時期はどの球団も優勝候補なのでファンはメディアの報道でチーム状態を確認しながら期待を抱いて開幕を楽しみに待ちます。

2月1日に気になるニュースを見かけました。「楽天 今江内野手、右目の不調にてキャンプ参加を見合わせ」 今江選手は私の贔屓の千葉ロッテにPL学園から入団、勝負強いバッティングと堅守で不動の三塁手として活躍し2005年と2010年に千葉ロッテが日本一になった時、シリーズMVPを取りました。千葉ロッテファンから絶大な人気を誇りましたが、残念ながら2016年にフリーエージェントで東北楽天に移籍しています。

数日後に彼が発症したのは中心性漿液性脈絡網膜症であると報道されました。この病気は眼科では略称として中心性網膜炎とも言われています。漢字が意味するように網膜の中心(黄斑部)に発症する病気です。自覚症状として視界の中心が暗く見えたり、歪んで見えたり、左右の目で物の大きさが違って見えたりします。恐らく今江選手の病状は重度で速いボールを目で追うことに支障を来すレベルであったと推察されます。どのようにして病気が発症するのでしょう?病気のメカニズムとしては黄斑部網膜深層の網膜色素上皮の機能異常を生じ、その下の脈絡膜血管からの浸出液がそこに溜まって限局性の網膜剥離が生じた状態です(図参照)。カメラで例えるとフィルムが凸凹になってしまい写真が歪んで映るイメージです。この疾患は幾つかの大きな特徴があります。青年~中年の男性の片目に発症することが多く、ストレスが原因として考えられ、多くは自然治癒するとされています。眼科医としては比較的よく遭遇する病気で、当クリニックでも年間10名前後の方が中心性網膜炎で受診されていますが殆どの方がこの特徴を有していると思います。稀に程度が強い場合や、中々軽快しない方には浸出液が出るポイントを調べてレーザー光凝固をする事があります。近年では加齢黄斑変性症に用いられる光線力学的療法の効果が調査されています。

最近のニュースでは2軍のキャンプに合流した模様で、大事に至っていないようで何よりです。

しっかりと後れを取り戻し、シーズンに入ったら千葉ロッテ戦以外で活躍して欲しいものです。

図1 網膜断層検査における正常黄斑部
【図1 網膜断層検査における正常黄斑部】
図2 中心性網膜炎の断層像 黄斑部下に浸出液が溜まった黒いスペースを認める。
【図2 中心性網膜炎の断層像 黄斑部下に浸出液が溜まった黒いスペースを認める。】
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